happiness129

裸足のまま相葉さんのシャツの裾をぎゅっと掴んだかず。

相葉さんはそんなかずに、チラッと視線を走らせて、俺の横を通り過ぎながらただいまって言った。

俺は、なんかちょっと混乱してて、おかえりなさいも言えなかった。

相葉さんの後ろを小さな子どもみたいについて行くかずを見て、苦しくなった。

かず

名前を呼んだけど、かずは振り返らなかった。

台所に消えた2人。

俺、ここにいる意味あんのかな。

いや、そうじゃない。

かずは相葉さんのことは、特別だって言ってた。

大好きな人だって、優しい顔して、寂しい顔して言ってた。

だから、だろ?

相葉さんと自分を比べちゃダメだって分かってるのに、くだらないことばっかり頭に浮かぶ。

目の端に入った散らかった俺とかずの靴を直して、リビングに向かった。

リビングに入る時にチラッと台所を見たら、かずは相葉さんのシャツを握ったままで、相葉さんを見上げてた。

何か話してる相葉さんに、いやいやと首を振って小さな子どものような動き。

その中に、甘えるような空気を感じてしまって、頭に血がのぼる。

嫉妬かよ。

こんな時に。

自分がちっさ過ぎて、呆れる。

かずが甘えることが出来るなら、相手は誰だっていいはずで、かずのココロが癒されるなら俺はその相手が俺じゃなくても、良かったって思うところだって分かってるけど。

いじいじぐるぐる

情けねぇ。

カーテンがブワッと舞って、濃い潮風が入ってきた。

臭いって嫌がるかもな

さっき開けた窓を閉める。

もうこもった空気は抜けていたから。

窓を閉めて振り返ると、新聞と雑誌がローテーブルに置きっぱなしになってたから、それを片付けながら台所の様子に耳を澄ます。

したら、風呂の方に移動する2人が見えて、風呂は用意してあるって言わなきゃって思って、俺も風呂場に行った。

かずが風呂に入るのを嫌だと言ってる。

相葉さんのシャツを握って、やだやだって繰り返す。

本当に小さい子どもみたいだ。

相葉さんしか見えてないみたいな様子が胸に刺さる。

何か作るよって言われて黙りこむかず。

お腹空いてんのか?

そういや、お昼食ってないもんな。

自覚すると突然お腹が空いてるような気がしてくる。

何食わせたら良いだろう。

おにぎり、食べたい

唐突におにぎりが食べたいって言い出した。

なんでおにぎりなんだ?

おにぎりって言えば、前に櫻井さんが破壊的なおにぎり作ってたのを思い出す。

あの時かずは下手くそ過ぎるって笑ってたけど、本当は目尻に涙が滲んでた。

だからなのかな。

あの時、あんなに愛情たっぷりの食べもの見たことないって、俺だって思った。

分かったよ、おにぎりね。作るから、お風呂入りな

うん

相葉さんがしがみついてるかずの手を解いて、かずを置いて出ていく。

脱ぐとこ見てるわけにいかないから、俺も相葉さんについて廊下に出た。

大野くん

はい

和にタオルと着替えを持って行ってあげてくれる?

それからおにぎり作るから、手伝って

おにぎり

うん。おにぎりがいいんだって

俺が着替え持ってくの?

今、出てきた風呂の方を見て考える。

相葉さんが持ってった方がいいんじゃないのか?

でもかずのことは俺が守るって決めたよな?

だけど、またあの無表情と無言に向き合うのかなって思ったら、ちょっと動けなかった。

返事をしないとって思うんだけどどうしても声も出なくて。

着替え、お願いね

念押しみたいに言われた言葉で、やっと動くことが出来た。

なぁかず。

お前はどんな気持ちなのかな。

俺、お前のこと守りたい。

まだ混乱してるけど、とにかく俺の最優先事項はかず。

だけど、かずは相葉さんしか目に入ってないみたいだし、どうすりゃいいんだって思いながらかずの部屋に入ったところで俺のスマホが鳴った。

電話してきたのは松にいで、お前何やってんだよっていきなり怒られて、とにかく話があるから出てこいって無理やり約束させられた。

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